2009年6月、ローマでヘンリー8世の離婚請願書の精密複製が公開されると、学者や聖職者が羊皮紙の署名を間近で見るために列をつくった。原文は1530年、英国貴族が教皇クレメンス7世へキャサリン・オブ・アラゴンとの離婚を認めるよう迫った書簡で、当時の上院議員の約70%にあたる署名者の蝋印81個が下がる。複製は重さ2.5キロ、価格5万ユーロで、毎月3部の速度で200部製作する計画だった。原文は1920年代までバチカン秘密文書館の引き出しで見失われていたという。この短い列で待たれたのは、有名人との対面でも原本の所有権でもない。英国の宗教改革へつながる政治的圧力を、署名のかすれや大げさな蝋印という物質的な細部から読み取るための、数分間の接近だった。