1990年1月、モスクワのプーシキン広場にソ連初のマクドナルドが開店した。店の外に集まった大勢の人々の姿は、ハンバーガー店の開業を超えて、変化しつつある時代の象徴として記録された。店に入るまでの列は、未知の味だけでなく、それまで日常の風景ではなかった接客や商業文化への好奇心も映していた。

この行列を「西側への憧れ」だけで説明すると、大事なものがこぼれる。外食の新しさ、店の規模、話題性、そして単純に一度試してみたいという気持ちは、同じ列の中でも異なっていたはずだ。当時のソ連社会では商品供給をめぐる待ち時間が生活の一部だったが、この日の列は欠乏だけではなく新奇さにも動かされていた。

列の先にあったのは、一食のハンバーガーである。そのありふれた結末が、かえって面白い。世界の一方では日常的な食事が、別の場所では時代の転換を感じさせる出来事になる。行列は食べ物の値段だけでなく、そこに至る社会の距離まで見せる。