2019年11月、レバノン南部シドンの銀行支店前には顧客の列ができた。経済危機と反政府抗議が続くなか、銀行協会は米ドル口座からの引出しを週1000ドルに制限する共通指針を決めた。ロイターの写真は、その制限が抽象的な金融政策ではなく、支店の外で順番を待つ人々の姿になった瞬間を記録している。
この列で人々が待ったのは融資や新商品ではない。すでに自分の口座にあるお金へ近づくためだった。銀行は措置を「資金移動の制限ではない」と説明したが、利用者にとっては、一週間に受け取れる額と窓口の順番が暮らしを左右した。ATMにも長い列ができ、週末の休業前には現金確保の需要が集中した。
銀行の列は信頼を目で見える形にする。他人が並ぶ姿は不安を強め、さらに人を呼ぶ。一方で、並んだからといって必要額を受け取れるとは限らない。金融危機が数字の問題から、時間と身体の問題へ変わる場所が、この支店前だった。
