2023年、テイラー・スウィフトの「The Eras Tour」は、開演前から別の舞台をつくった。6月1日のシカゴでは、ソルジャー・フィールド前の物販に数百人が並び、CBS Chicagoは8時間以上待ったファンもいたと報じた。ロサンゼルスでも、SoFiスタジアムでの初公演を翌日に控えた8月2日、公式グッズを求める数千人の列ができた。
待っていたのは、コンサートへの入場ではない。ツアー名や都市名が入った衣類や記念品を、売り切れる前に手に入れるための順番だった。シカゴでは一人あたりの購入数に上限が設けられ、列の長さは人気だけでなく、限定商品を公平に分ける仕組みでもあった。
この行列の固有さは、音楽体験が会場内だけで完結しない点にある。公演の記憶を持ち帰る品を選ぶ時間も、ファン同士が衣装や期待を共有する時間も、ツアーの一部になった。商品を買うための列でありながら、そこではすでに観客の共同体が始まっていた。
