ただし、インフレの歴史から自動的に「どのスーパーにも長蛇の列があった」と結論づけることはできない。レジの混雑、買いだめ、燃料購入の列は、それぞれ日時と場所を示す資料で確認すべき別々の出来事だ。

ブラジルのハイパーインフレ期には、店員が値札を書き換える速度と客が商品を選ぶ速度が競った。給料日にまとめ買いする列は、安売りを待つ行動ではなく、同じ紙幣で買える量が減る前に生活物資へ換える防衛だった。

ブラジルで1980年代から1990年代初頭にかけて深刻化した高インフレは、買い物の時間感覚を変えた。今日の値段が明日も同じとは限らない。給料を受け取ったら早く必要な品を買う、価格の変化を気にしながら売り場を歩く。買い物は家計の計算と時間との競争になった。

この時代のブラジルを理解する鍵のひとつは、1994年に導入されたレアル・プランである。通貨と物価の安定を目指した政策は、値札を読む人々の日常にも関わった。安定した値段とは、同じ商品を明日もほぼ同じ尺度で比べられるということだ。

価格統制が導入されると、表示価格が抑えられても商品が店頭から消え、非公式市場との価格差が広がることがあった。公式店の列で時間を払うか、別の市場で高い価格を払うか。家計は同じ商品について、金銭と待ち時間のどちらを差し出すか選ばされた。

物価の上昇は確かな背景であっても、レジ前の列を自動的に証明しない。給料日、店舗、撮影日を結ぶ記録が見つかったとき、この家計防衛の時間を具体的な行列として描ける。