2017年、ロサンゼルスの美術館ザ・ブロードで草間彌生の「Infinity Mirrors」展が開かれた。前売り5万枚は発売から1時間で完売した。それでも毎朝、美術館前には30ドルの当日待機券を買える可能性に賭ける列ができた。列の先で得られるのは長時間の鑑賞ではない。券一枚につき、六つの「無限の鏡の間」それぞれで保証された時間は30秒だった。

鏡、LED、発光するかぼちゃや球体が反射を繰り返す室内は、少人数しか入れない。作品の構造そのものが処理人数を制限し、鑑賞者の滞在時間を厳密に区切る必要を生んだ。スマートフォンとSNSの普及は、この短い体験を写真として持ち帰りたい需要も強めた。美術館の展示が、時間枠を販売するサービスに近い運用を求められたのである。

記事は当日列の人数や平均待ち時間を示していないため、それらは不明のままにする。確認できるのは、前売り券が一時間で完売し、毎朝スタンバイ券のために列ができ、入室時間が各部屋30秒だったことだ。

無限を題材にした作品に対し、鑑賞時間は秒単位で有限だった。この矛盾が列の仕組みを決めた。鏡の中では像が果てしなく続いて見えても、入口の外では次の人が待っている。30秒が終われば退出し、無限の空間はまた別の一人へ渡された。 当日券は必ず買える権利ではなく、買える可能性を待つ仕組みだった。前売り完売後も入口を完全に閉じず、空きや運用余地をスタンバイ列へ配分することで、美術館は不確実なアクセスを順番として管理した。