2010年4月3日、初代iPadが米国で発売された。Appleは3月12日から予約を受け付け、配送分だけでなく店頭受け取り枠も用意した。それでも発売朝の直営店には列ができた。そこには予約済みの受け取り客と、当日在庫を求める客という性質の違う待機が同居していた。iPadはノートパソコンほどのキーボードを持たず、電話ほど小さくもない。何に使う機械なのかを消費者自身が確かめる段階で、列は未知の製品への公開実験になった。
予約制度は行列を消すためではなく、在庫と人の流れを分けるために働いた。受け取り時間を確保した人にとって、列の先にあるのは購入権ではなく、すでに約束された商品の引き渡しである。一方、予約のない人は限られた当日在庫を待った。同じ歩道に見える二本の列は、まったく違う不確実性を持っていた。後に一般化するタブレット端末を前に、人々が最初に学んだのは画面の操作だけではない。ネットで予約し、店で受け取るという、デジタル時代の待ち方そのものだった。
発売当日の店頭は、端末を触って用途を判断したい見物客と、すでに購入を決めた予約客も引き寄せた。新カテゴリーの製品では、列は在庫配分だけでなく説明の場にもなる。スタッフが一台ずつ手渡す速度と、客が初めて画面を試す時間が、販売の流れを決めた。
