2019年6月、ケニアの首都ナイロビでは、旅券の申請や切り替えを求める人々が、ニャヨ・ハウスの入国管理本部に並んでいた。混雑を避けられないかと考えた女性ジョイ・ワンブイは、二人の娘を連れて地方都市エンブの窓口へ向かった。自分の古い旅券を切り替え、娘たちには初めての電子旅券を取得するためだ。娘たちはその日、学校を休んだ。
ところが、午前10時少し前にエンブの窓口へ着くと、当日受け付ける枠はすでに埋まっていた。地方の窓口が一日に対応できる人数は100人ほどだった、と『Business Daily』は報じている。大都市から出れば列が短くなる、と考えるのは自然だ。しかし窓口を分散しても、受け付け可能な人数と人々が集まる時間帯が合わなければ、行列も分散するだけになる。
旅券は、国境を越えるときに初めて必要になるわけではない。まず申請書類をそろえ、窓口へ行き、本人確認や発給を待つ。旅行の予定は数か月先でも、そのために休む仕事や学校、乗るバス、費やす交通費は今日の出来事だ。窓口が遠ければ遠いほど、整理券を取れなかった一日が重くなる。
旅券とは、国を出入りするための書類である。けれども、この親子が先に経験したのは、国境とは無関係に見える国内の移動だった。書類一冊にたどり着くまでにも、すでに小さな旅が始まっていた。
窓口を地方へ分散しても、申請者が信頼できるのは処理実績のある場所だった。遠くの事務所へ移った列は、建物の数より手続きへの信頼が混雑を左右することを示した。
