2016年4月、バングラデシュでは携帯電話のSIMカードを生体認証で再登録する作業が進んでいた。国営通信担当相タラナ・ハリム自身も郵便局の窓口に約20分並び、自分のSIMを登録した。手続きでは国民ID番号を照合し、指を読み取り機に置く。政府は全国約9千の郵便局でも登録を受け付ける準備を進めた。

この列で人々が待ったのは、新しい電話を買うためではない。すでに使っている番号を使い続ける資格を、本人の身体と結び直すためだった。制度の狙いは、偽名登録されたSIMが犯罪に使われるのを防ぐことにあった。登録期限が近づく時点でも、約1億3100万回線のうち生体認証済みは5450万回線にとどまっていた。

SIMカードは小さく、別の端末へ簡単に移せる。その軽さに対し、本人確認は指紋、身分証、窓口、順番待ちという重い手続きになった。デジタル通信を管理する制度が、最後には人を物理的な列へ戻したところに、この行列の固有性がある。